望嶽台 箱根登山鉄道 紫陽花

望嶽台別編 箱根登山鉄道に乗る。強羅−箱根湯本




箱根根湯本駅
 ここが海抜108Mもあるなんて驚き。
 調べてみると、小田原から箱根湯本までは距離6.5Km、標高差86m、 最大斜度40パーミルの急坂も、最小曲率半径160mのカーブもある凄い登りのようである。
 大型蒸気機関車ではどうにもならないような急坂/急カーブの路線へ、山岳仕様ではない都市型小田急電車が入ってくる。 電車と言うのは偉大である。

箱根登山鉄道
箱根湯本−強羅間 8.9Km。普通電車片道料金390円。パスモ/スイカ利用可能。
軌間1435mm。
単線・1500V直流電化。 三両、二両編成の電車で運行。
平均斜度50.3パーミル、最大斜度80.0パーミル。最小曲率半径30m。
全線粘着運転。 駅数;8、内スイッチバック駅1。
信号所数;3、内スイッチバック信号所2。箱根登山鉄道の名称では信号場。


 列車内にあった、スイス・レーティッシュ鉄道のとの関係を示す表示。
 湯本駅を出るといきなり急坂を登り始める。吊皮の下がる角度が、急勾配を物語っている。

 スイス・レーティッシュ鉄道はスイスの東半分にいくつもの路線を持つスイス私鉄の雄で、有名な氷河急行の 東側半分にあって世界遺産の路線のアルブラ線、スイス鉄道峠越え最高地点を持つベルリナ線、盲腸線のアローザ線、ランドヴァッサー渓谷を行くダヴォース線 などがある。
 箱根登山鉄道は姉妹線としてべルリナ線をフィーチャーしているが、私は同じ盲腸線で、山間を強引に縫って登るアローザ線の方が似ていると思う。


レーティッシュ鉄道サンモリッツ駅

 駅自体が日本の鉄道最高地点1375mより遥かに高い1810mの所にある。一年の300日は晴れるというサン・モリッツの雨。

氷河急行の最後の路線、アルブラ線の終点であり、べルリナ線の始発駅である。

 右の写真中央に見える木製の駅標には日本語で『サン・モリッツ』とある。
 レーティッシュ鉄道はラックレールが嫌いで、会社の全線が粘着運転である。勿論全線電化であるが、電車ではなく機関車が客車(時に貨物列車や客貨混成列車) を引っ張る。編成は7,8両あり、なかなか立派である。
 箱根登山鉄道がフィーチャーしているべルリナ線は、サンモリッツ−ティラーノ間の鉄道で、軌道間1000mm、レーティッシュ鉄道の中でも最も高い 2253m地点を走り、最大斜度は60パーミル、最小曲率半径は45mである。180度の方向転換をハーフループ(トンネルが多い)で行う為 スイッチバックは無い。

強羅駅



レーティッシュ鉄道ティラーノ駅(イタリア)

 ティラーノはべルリナ峠を越え、ひたすら急斜面を下ったイタリアの町で、標高は450mしかない。

強羅駅のレーティッシュ鉄道との姉妹関係強調グッズ




 強羅駅のホームの巨大な看板と実際の風景。
 看板にある列車はべルリナ線のべルリナ急行。右の写真は同線の普通車から。

 バックは最高4049mのピッツ・べルリナ山群とモルテラッチ氷河。

 有名な氷河急行よりこちらの方がずっと景色が良い。べルリナ線の各駅停車の普通列車でも景色は十分楽しめる。
 4000m峰と氷河の他に、スイスの鉄道の峠越え最高地点(2253m)、4回連続180度切り返しつづら折れ、360度オープンループ橋、 などのトピックス的風景もあり、列車での国境越えも味わえる。
 ただし、氷河急行のアルブラ峠越えにある(重層した)360度ループトンネル、Ω型路線などは無い。

さらにしつこくべルリナ線の思い出

 左;機関車の側面にあった、『箱根』の文字。これが箱根号か?。

 中;ディアボレッツァ付近の踏み切。スイスには鉄道と道路の平面交差踏切が多い。遮断機が開いている時一旦停止するという交通規則は無い。

 右;360度オープンループ橋を降りて、ティラーノに向かう貨客混成の列車。



ようやく強羅駅を発車、箱根湯本に向かって下る。


 駅前の土産物屋さんの店先の温泉源泉懸け流しの『手湯』で身を清めて、強羅発。  この『手湯』非常に熱い。

 強羅は早雲山行のケーブルカー乗り継ぎ駅で、下りケーブルカーが着くとホームに人が溢れる。
 狙い目の最前列/最後列(ベンチシートの一番前/後寄り)を取るには一電車送って次の電車に並ぼう。



 強羅駅を後にする





彫刻の森駅

 強羅からの駅間距離700m、高度差2m、とここまでは殆ど平らである。
 彫刻の森駅から小涌谷に向かうと線路は平均斜度18パーミルで下り始める。 紫陽花がきれい

 下右はGoogle Earth(以下;航空写真)から。
 強羅発湯本行きの場合、電車はINから入ってOUTに抜ける。Kは小涌谷駅。
 Cは国道1号線(R1)との踏切。この踏切では、正月の箱根駅伝で選手が来ると電車の方を止めるので有名であるが、傾斜の地形、駅のすぐそばと言う位置、 単線で15分〜20分おき運行と言うダイヤなどから考えてかなり難しい技だと思う。
 画面中央左のハーフ・ループ(30R)は曲率半径30mである。
 箱根湯本から絡まりあって登って来た箱根登山鉄道と国道1号線はここで別れる。線路と国道1号線の平面交差がここ一か所しかないというのも素晴らしい。

小涌谷付近通過



宮の下駅へのアプローチ

 小涌谷−宮の下間は駅間1300m、高度差87m、平均斜度68パーミル、最大斜度80パーミルと箱根登山鉄道らしくなってくる。
 急カーブでの線路の摩耗と摩擦音を低減する為に線路に散水しながら走るので線路は常に濡れている。 従って残念なことに、レーティッシュ鉄道の魅力の一つであるあの官能的ともいえるカーブの通過音はあまりしない。

どんな音なのかはここをクリック
レーティッシュ鉄道アローザ線の曲線トンネルの通過音


 駅のすぐ手前に80パーミルの勾配表示。 箱根登山鉄道の凄いところはこの80パーミルの勾配が殆ど全線いたるところにある事である。
 粘着運転でこの勾配は、日本で一位、世界第二位である。(一位はオーストリアにあって、105パーミルであるらしい)。
 ところがネット世界にはこの80パーミルを、いきなりケーブルカーやラックレールの勾配と比較して、鉄道として大した傾斜では無い などいう奴もいる。これはオリンピックの100メートルのウサイン・ボルト選手の走るスピードを、自動車や大型バイクと比較して大したことは無い、 遅いと言うに等しい。
 旧国鉄の幹線の最大勾配は25パーミルだった。所謂1000分の25の勾配である。これは超大編成の貨物列車にとっては苦しい急坂で、 蒸気機関車の場合、機関車を二両繋ぐ重連、三両繋ぐ三重連で運転され、発進にはスイッチバック設備が必要だった。
 箱根登山鉄道の80パーミル、1000分の85は粘着運転の鉄道としてはとてつもない急坂である。


宮の下駅

 宮の下付近の航空写真。
 電車はINから入ってOUTに抜ける。 Mは宮の下駅、 Fは箱根のシンボル的ホテルである宮の下富士屋ホテルの建物群。
 国道1号線がホテル前を通過して宮の下三叉路(交)で 一号線と仙石原方面への138号線とに分かれる。
 この三叉路、芦の湖方面から1号線を下ってくると、信号が赤の点滅になっており、 仙石原方面からの田舎国道138号線から1号線に合流してくる車に道を譲らなければならない。これは天下の国道1号線を走って来た身としては腑に落ちない規則である。



 宮の下駅を出た強羅行き電車が80パーミルの坂道に向かう。

 湯本行の電車は、宮の下からしばらく国道1号線とカーブの形状も忠実に並行する。 しかし、国道を走っていても電車に乗っていてもお互いの姿は全く見えない。 これは急斜面の等高線沿いに、上を電車、下を国道が走っているからである。
 こういう風に、カーブを厭わず等高線にできるだけ逆らわない線路敷設はレーティッシュ鉄道的である。








 強羅からだと最初のトンネルである長さ302m、沿線随一の長さの大平台トンネル通過。

 全部で11本のトンネルがあるが、その内真っ直ぐといえるのは塔の沢駅の下手にある1本だけである。
 出山信号場手前(箱根湯本行の場合)の嵐山トンネル(237m)はS字カーブを描いている。
 残念ながら、ループ(360度)ないしハーフ・ループ(180度)を1本で描くものは無い。

上大平台信号場

 電車はINから入って、UOで示すスイッチバックの上大平台信号場で方向転換し、Oで示す やはりスイッチバックの大平台駅に向かう。大平台駅で、もう一度方向転換した電車はOUTから出て行く。

 上大平台信号場と大平台駅の間隔は500m、高低差は10mなので、このスイッチバックは急勾配の解消というより、 狭い谷合に鉄道を通し、さらに僅かな平地に駅を設けるという目的であるように思える。なかなか巧みな技である。

 R1は国道1号線。この辺は大型車同士だとすれ違いが苦しい位狭い。


 強羅行き電車がスイッチバックの上大平台信号場を出ていく。 信号所と言うのは単線運転の路線において、駅以外の場所で列車のすれ違いを行わせる為の設備で、箱根登山鉄道には3か所ある。 内2か所がスイッチバックである。
 川端康成の『雪国』は「国境の長いトンネルを抜けるとそこは雪国だった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった」と始まる。 この信号所は駅も兼ねていたようで、後で駒子と判る女性が「駅長さあん」と呼びかけている。現在の越後中里駅であろうか。 私の生家の近くの新府駅も元は新府信号所だった。大東亜戦争中、当時は単線だった中央線の輸送力増強(列車本数を増やす)の為に設けられたのが最初である。 所謂平和運動家に言わせると、新府駅は地下防空壕などと同列の戦争遺構なのだそうである。
 箱根登山鉄道は15〜20分おきの運行ダイヤである為、殆ど全部の駅と信号所ですれ違いがある。


 上大平台信号場を発車する。
 前後が逆になり、車掌と運転手が交替して、すぐ目の前に運転手がおり、左手でハンドルを握っているのが見える。運転手はこのハンドル持参で颯爽と乗り込んで来て 電車を動かし、次のスイッチバックでこのハンドルを外して手に持って去って行く。
 左の窓の手前にある二つのスイッチ(ノブ)の位置が、先頭運転台になった時と、最後尾車掌室になった時では位置が異なる。


 有名な撮影ポイントなのか、カメラが2台こっちを向いている。  上の航空写真で、上大平台信号場を出て下る電車の線路の、Pで示す踏切である。

 下左写真;大平台駅停車中、隣のホームに強羅行きの電車が入って来た。強羅行は三両編成と長いので奥まで入って行く。

 下右の航空写真。
 大平台駅付近。Oの下の白い逆コの字が大平台駅のホーム。
 STは国道一号線を走っていて、「あ、大平台駅だ」と認識する辺り、道路からでは駅は玄関が見えるだけなので 知らないとホームがこんな構造になっているとは気がつかない。
 R1は箱根駅伝でおなじみの大平台のヘアピンカーブ。12月早々から参加各大学応援団の旗が並ぶ。

大平台駅



出山信号場

 電車は画面に嵐山トンネルの出口(IN)から入り、スイッチバックの出山信号場(D)で方向転換し、Tで示す小山を 松山トンネル(97m)、出山トンネル(125m)の二つを含むたった250m余りで180度回り込み、有形文化財指定の早川橋梁(H)を渡って対岸に移る。 これはレーティッシュ鉄道も真青の荒業である。 早川橋梁は国道1号線(R1)も跨ぐため、 国道1号線箱根峠を走る車から鉄道線路の存在が視認できる数少ない場所の一つである。

 左の写真は嵐山トンネルを出て信号場に入る電車の最後尾から。右に松山トンネルの入り口が見えている。

塔の沢駅

 塔の沢駅(T)はトンネルとトンネルの間の僅かな空間を使って、と言うより、空間が足りずにトンネルを広げて 対面式のホームが設けられている。

 この駅もすぐ脇を走る筈の国道一号線(R1)からは見えない。

箱根湯本駅への進入

 紫陽花へのイルミネーション用ライトが設置されているが、今年はイルミネーションは無いと広報されている。

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