先の沼津からの富士山と同じ日。
箱根からだと、宝永火口の東側から見ることになり、
御殿場の正面の滑らかな面が見えるので富士山は冬でも白く見える。
箱根スカイラインへは、裾野市岩波から深良用水沿いに登る道路がある。この道路を使うと、
箱根スカイラインと芦ノ湖スカイラインの中間にある駐車場に出られるので、両スカイラインに無料で入り込める。
但し、長尾峠側からも箱根峠側からもお金を払わないと出られない。湖尻への出口料金所は時間により無人になるので、湖尻へは
無料で行ける場合もある。ただし料金所に人が居てお金を払っても100円である。ETCは無い。
岩波から入ってまた岩波に下りてくればいくら走り回っても無料である。岩波からの道路も改修されており山道が好きな人には魅力的な
ワインディング・ロードである。
箱根スカイラインと芦ノ湖スカイラインはもう40年以上に亘って車のデモンストレーションに使われ続けている観光道路で、
今でもテレビで新車が走る場面はお馴染みである。
愛鷹山の左(南斜面)上に駿河湾が広がる。大野原のススキは穂が出る寸前と云うところである。
大野原のススキの広がりを載せた(地図上で描くと同心円状になる)斜面は南で愛鷹山、東で箱根にぶっつかるまでなだらかに広がっている事が判る。
面白いのはこの広大な面積を水源とする川が主に箱根の西側斜面の水を集める黄瀬川しかないことで、富士山側の雨はスカスカの溶岩を通って
伏流水になる分が圧倒的に多いらしい。伏流水といえば、有名な柿田川湧水は一見の価値がある。国道1号線沿い、大規模ショッピングセンターのすぐ脇、
こんな所に!!と驚くような場所である。
夏には東のみんみん蝉と西のくま蝉の競演(同時鳴き)や、セキレイなどに出会える。
この富士山と箱根の間を通って、足柄山で分水嶺を越え、酒匂川流域に出る山越えは足柄道として大宝律令で駅が整備されたという極めて古い東国と
西国を結ぶルートだった。しかし、経路が長いことを嫌われ、西暦800年、802年と続く富士山最後の山頂大噴火活動による一時閉鎖を期に
険しいが短い箱根越えルートにとって替わられている。
富士山の山頂噴火は大規模にはこれが最後であるが、小規模にはその後も続き、
だいたい平安時代中期までは頂上から噴煙をあげていたらしい。竹取物語のラスト・シーンは頂上から噴煙を上げる富士山の描写である。
新しいルートとして開拓された箱根峠の小田原側の険しさは新春の箱根駅伝5区の山登りでも判るが、三島側も半端ではなく、
麓との標高差860mというのはヨーロッパアルプスの2000m越えの峠道級である。
東海道線も鉄道の箱根峠越は不可能なのでまずこの足柄道を通し、時代が下って技術が出来てから箱根の下に丹那トンネルを掘った。
この丹那トンネルの工事は、活火山である箱根山の下をえぐり、伊豆半島と日本列島本島の境界面の破砕帯を突破する7804mの歴史的難工事で、
16年間の歳月と67名の犠牲者を出して1934年に完成した。東海道本線の丹那トンネルを通る機会にはこの難工事への敬意を持ってしかるべきである。
東海道新幹線はこの丹那トンネルをパイロット・トンネルとし、30年間の技術の進歩を以って工期5年間で新丹那トンネルを通し、1964年の開通時から
箱根越えである。
東海道本線と東海道新幹線のトンネルはほぼ平行で、熱海側入り口で約30メートル離れており、新幹線トンネルの方が北側(より陸側)にある。大縮尺地図で
このトンネルの線を見ると、二本のトンネルは完全に平行ではないというより、間隔そのものが微妙に変化している。先日聞いた話だと、東海道本線のトンネルは、
工事中の1923年に関東大震災に遭っており、この為トンネルそのものが数学的に正しい直線ではなく、よれているのだそうである。こんな話を聞くと、
ますます東海道本線の丹那トンネルが愛おしくなる。
東海道線は地下を使っての箱根越えになったが、JR御殿場線は当然として、国道246号線、それに東名高速道路が現在でも足柄道を抜けている。
険しくても短い方が良い、という選択は徒歩時代には常識だったらしく、アルプスの歴史の古いトンネルでも、徒歩時代の道と云うのは
途轍もなく険しい事が珍しくない。この足柄道も、現在の御殿場から酒匂川沿いに
松田方面に出るルートではなく、折角下りかかった御殿場線足柄駅付近から直角に右に曲がり猛然と足柄山を登る足柄峠越えで松田に抜けていた。
現在の御殿場線沿いの足柄道なら峠らしい峠なしに東国に出られるのにと思う。
当時の土木技術では蛇行する酒匂川に忠実に沿ったうねうねとした道しか作れなかったであろうから非常に遠回りになってしまうのを嫌われたのであろうか?。
そういえば『夏の医者』のお医者さんも落語国のとある山を迂回するルートを嫌ってうわばみの住む山越えを敢行して呑まれしまっている。
足柄道が山越えルートとして優れている事は、この地方が台風に襲われた時、意外にも運休・交通止めになるのを最後まで粘るのは足柄道ルート側で、
東海道線はいつも真っ先に運休になる事からも判る。東海道線のネックは意外や三島-沼津間にある黄瀬川鉄橋で、普段はちょろちょろのこの川はあっという間に
増水するらしい。
天閣台 2013年11月
箱根スカイラインというより、箱根ターンパイクの一部か?。芦ノ湖と富士山を眺める展望台である。
遠景の左端は愛鷹山で、その右手前のピーク辺りに南アルプスが見える。おそらく南端の赤石岳、荒川岳辺りであろう。
十国峠 2013年11月
天閣台からの角度とほとんど変わらないが、ここまで引くと、箱根外輪山の西側が切れ、大野原の枯れ薄の薄茶色が見えてくる。
画面に左から入って来るのは愛鷹山の裾で、実はここから裾野の旧住処(のある住宅団地が)見える。
十国峠からは、沼津方面の俯瞰も絶景で、沼津の地理が多少は判るので実に興味深く、ずっと見ていたくなる。
足柄山といえば金太郎である。日本人なら誰でも知っていると言いたいこのお話、ライバル桃太郎が始めから終わりまで正しく話せる人が多い
(桃太郎を話すインコも居る)のに対して、
意外やちゃんと知っている人は非常に少ないのだそうである。金太郎のお話のキーは三つ。『足柄山で、金太郎と呼ばれ熊と遊んでいた』
『偉い武士(源頼光)に見出されて家来になって都に上がり、強い侍(坂田金時(公時))になった』『大江山で鬼(酒呑童子)退治をした』
でこの三つを固有名詞の精度はともかく並べられないと金太郎のお話を知っているとは言えないそうである。
童謡『桃太郎』が生い立ちから始め、鬼が島から宝物をぶん獲って凱旋して来るまで歌われるのに対して、『金太郎』はどこまでもはっけよいのはっしどうの
と遊んでいるばかりの差かもしれない。